
円形脱毛症の治療法は実にさまざまです。
日本皮膚科学会が作成する最新の円形脱毛症診療ガイドラインでは、計26種類の治療法について言及されています。根治を目指す治療法は確立していませんが、これまでの研究から推奨度の高い治療法が明らかになりつつあります。
そこで今回は、円形脱毛症の治療法とそれぞれの推奨度をまとめました。各治療法のリスクや保険適用の有無についても解説します。
目次
円形脱毛症はなぜ起こる?

円形脱毛症の原因で、近年もっとも有力であると言われるのが自己免疫疾患です。
私たちの身体には、外部から異物が侵入するのを防ぐ免疫機能が備わっています。この機能は本来、自身の身体に害となるものに対して働きますが、何らかの理由で自己の正常な組織を攻撃してしまうことがあります。
この状態が自己免疫疾患です。自己免疫疾患の種類には次のものがあります。
疾患 | 症状 |
バセドウ病 | 動悸・多汗・手足の震え・イライラなど |
橋本病 | 脈が遅い・寒気・眠気・物忘れなど |
関節性リウマチ | 関節の痛み・腫れ・こわばりなど※朝に強く見られる |
全身性エリテマトーデス(SLE) | 顔面蝶形紅斑・発熱・倦怠感・関節痛・口内炎など |
血管炎 | 発熱・倦怠感・体重減少・頭痛・頸部や肩甲骨の痛みなど |
強皮症 | レイノー症状(寒冷刺激で手指が白くなる)・皮膚硬化・色素沈着など |
Ⅰ型糖尿病 | 喉の渇き・頻尿・体重減少・疲れなど |
重症筋無力症 | 筋力低下(顔・手足・呼吸筋など) |
円形脱毛症の場合、免疫系の異常によってTリンパ球が毛包を異物として認識します。攻撃を受けた毛包は正常に機能できなくなり、円形の脱毛斑ができてしまうのです。
なお、自己免疫疾患の原因は明らかになっていません。
円形脱毛症の治療法

ここからは円形脱毛症の治療法を一つずつ解説します。
円形脱毛症診療ガイドライン内で言及されている治療法やかつらの着用、経過観察のみ行う場合についても触れています。
治療法①ステロイド局所注射療法

ガイドラインでの推奨度 | B:行うよう勧める |
保険適用 | 〇 |
免疫反応を抑えるステロイドを脱毛斑に注射する治療法です。
比較的効果を実感しやすく、ガイドラインでは推奨度がもっとも高く評価されています。
局所療法には、注射した部分のみ発毛するという特徴があります。痛みを伴うこと、脱毛斑が広範囲に及ぶ場合には注射の回数が増えることから、全頭型や汎発型の円形脱毛症はほかの治療法との併用も検討すべきでしょう。
原則として子どもへの治療は行いません。
治療法②局所免疫療法

ガイドラインでの推奨度 | B:行うよう勧める |
保険適用 | 〇 |
人工的にかぶれを起こし、免疫反応を抑制することで発毛を促す治療法です。
こちらもガイドラインではもっとも推奨度(B評価)が高く、円形脱毛症の治療では第一選択肢として行うよう勧められています。症状を問わずに行えること、また子どもに対しても治療ができる点が大きな特徴です。
かぶれを起こすために使用する化学試薬には、
- スクアレン酸ジブチルエステル(SADBE)
- ジフェニルシクロプロペノン(DPCP)
などの種類があります。
両者で効果に大きな差はありませんが、SADBEの方が接触性皮膚炎が起きやすいという報告があります。
治療法③ステロイド外用療法

ガイドラインでの推奨度 | B:行うよう勧める |
保険適用 | 〇 |
免疫反応を抑えるステロイドを脱毛斑に直接塗布する治療法です。
ガイドラインでの推奨度はB評価で、治療効果の高い方法として広く行われています。
子どもの治療にも使用できること、また治療方法が簡易(1日2回塗布する)であることから、比較的はじめやすい治療法として知られています。
治療法④ステロイド内服療法

ガイドラインでの推奨度 | C1:行ってもよい |
保険適用 | 〇 |
ステロイド内服による治療にはいくつかの条件があります。
- 円形脱毛症の発症後6ヶ月以内であること
- 症状が急速に進行していること
- 成人であること
- 期間限定での治療にすること
高い効果が期待できますが、その分治療をやめた後の再発率が高い治療法です。
また、副作用として肥満・緑内障・生理不順・ムーンフェイス・骨粗鬆症などが起こる可能性があります。
以上の内容を総合的に判断した結果、ガイドラインでの推奨度はC1の評価です。
治療法⑤ミノキシジル外用療法

ガイドラインでの推奨度 | C1:行ってもよい |
保険適用 | ×(自由診療) |
ミノキシジルは日本で唯一効果が認められている発毛成分ですが、円形脱毛症への有用性は十分なエビデンスがありません。
ただし、小さい脱毛斑への効果は期待できるため、単発型あるいは多発型においてはほかの治療法と併用して行うことが推奨されています。
ミノキシジル外用は自由診療に該当する治療法なので、治療費は全額自己負担となります。
治療法⑥冷却療法

ガイドラインでの推奨度 | C1:行ってもよい |
保険適用 | ×(自由診療) |
ドライアイスや液体窒素で脱毛部位を冷却し、免疫反応を抑制する治療法です。
ここ最近行われた冷却療法の臨床試験では、計353症例のうち約6割に発毛効果が認められたとの報告があります。ただし、広範囲の脱毛斑では効果が乏しいとして、単発型あるいは多発型への治療が勧められる方法です。
冷却療法は通常、ほかの治療法と併用して行われます。
治療法⑦紫外線療法

ガイドラインでの推奨度 | C1:行ってもよい |
保険適用 | 〇 |
脱毛斑に紫外線を照射し、免疫反応を抑制する治療法です。
紫外線療法にはいくつか種類があり、照射する紫外線の波長の長さによって以下の通り分類されます。
- 波長の長い紫外線(UVA)を照射する「PUVA療法」
- 波長が311nm付近の紫外線(UVB)を照射する「ナローバンド療法」
- 波長が308nmの紫外線(UVB)を照射する「エキシマレーザー療法」
PUVA療法はおもに全頭型あるいは汎発型の成人患者に行われる治療法です。ソラレンという薬剤を塗布または内服してから紫外線照射を行います。
ナローバンド療法とエキシマレーザー療法はどのタイプの円形脱毛症にも対応可能で、子どもに対しての治療も行えます。照射前に薬を塗ったり飲んだりする必要はありません。
治療法⑧静脈注射によるステロイドパルス療法

ガイドラインでの推奨度 | C1:行ってもよい |
保険適用 | 〇 |
免疫反応を抑えるステロイドを集中的に投与する治療法です。
短期的には有効な方法ですが、再発率が高いため発症後6ヶ月以上が経過している場合には行いません。また、肥満・緑内障・生理不順・ムーンフェイス・骨粗鬆症などの副作用が起こる可能性があります。
治療法⑨抗ヒスタミン薬の内服療法は有用か

ガイドラインでの推奨度 | C1:行ってもよい |
保険適用 | ×(自由診療) |
単発型あるいは多発型の併用療法として勧められる治療法です。
臨床試験では、塩化カルプロニウムやエバスチン、フェキソフェナジンなどとの併用で脱毛斑が小さくなったとの報告があります。とくに、アトピー素因のある被験者では有用な効果が認められました。
なお、抗ヒスタミン薬による円形脱毛症の治療は自由診療として扱われます。
治療法⑩セファランチン内服療法

ガイドラインでの推奨度 | C1:行ってもよい |
保険適用 | 〇 |
セファランチンは、抗アレルギー作用や免疫機能を増強させる効果のあるお薬です。
軽度の円形脱毛症では脱毛斑を縮小させる効果があると考えられています。豊富な治療実績で安全性が認められていることから、単発型あるいは多発型の併用療法として勧められています。
治療法⑪グリチルリチン・グリシン・メチオニン配合錠の内服療法は有用か

ガイドラインでの推奨度 | C1:行ってもよい |
保険適用 | ◯ |
単発型あるいは多発型の併用療法として勧められている治療法です。
治療法⑫カルプロニウム塩化物の外用療法は有用か

ガイドラインでの推奨度 | C1:行ってもよい |
保険適用 | ◯ |
単発型あるいは多発型の併用療法として勧められている治療法です。
治療法⑬かつらの使用

ガイドラインでの推奨度 | B:行うよう勧める |
保険適用 | ×(自由診療) |
根治のための治療法ではありませんが、紫外線や外的ダメージを防ぐ効果があります。
一部の研究ではかつらの使用によって情緒や不適応感が改善したとの結果もあります。海外では医療用具としてかつらを認めている国もあるようです。
その他(推奨度C2)の治療法

以下はガイドラインで推奨度C2(行わないほうがよい)とされている治療法です。
- シクロスポリンA内服療法
- 分子標的薬の全身投与
- 漢方薬療法
- 抗うつ薬・抗不安薬の内服
- タクロリムス外用療法
- プロスタグランジン製剤の外用療法
- ビタミンD外用療法
- レチノイド外用療法
- 催眠療法
- 心理療法
- 星状神経節ブロック療法
- Platelet rich plasm療法
- アロマテラピー
- 鍼灸治療
臨床試験で十分なエビデンスが得られない、または発毛の有用性が確認されないという理由から、これらの治療法は行うべきでないと評価されています。
円形脱毛症は病院に行くべき?治療しないとどうなるか

円形脱毛症の主な症状は脱毛と爪の凸凹のみなので、治療しないことで別の病気になるとは考えにくいです。
とはいえ、髪の毛が抜ける精神的ショックは非常に大きく、円形脱毛症であること自体にストレスを感じる方は大勢いらっしゃいます。
頭部を隠すことに気をとられ、集中力が下がったり外出の意欲が起きなくなったりなど、生活の質(QOL)にも大きな影響を与えるでしょう。
円形脱毛症の発症には自己免疫疾患や遺伝が起因するため、体質的に進行が止まらない患者様がいます。再発を繰り返すケースも多く、症状によって治癒までに数年かかる場合もあります。
円形脱毛症の治療は、脱毛斑を発毛させることがすべてではありません。QOLの低下を防ぐという意味でも有用なものなので、症状が見られた時は早期の治療をおすすめします。
円形脱毛症の治療中にしてはいけないこと
円形脱毛症の治療を理由にNGとされることはありません。
ただし、円形脱毛症はストレスが引き金となる場合があるため、日頃からストレスをためないよう意識することが大切です。
また、髪の成長のためバランスのいい食事と適度な運動、質のいい睡眠も意識してみましょう。
円形脱毛症にかかる治療費用の相場

円形脱毛症の治療にかかる費用は、治療法によって実にさまざまです。
現在皮膚科などで一般的に行われている費用相場をまとめました。
治療法 | 費用相場 |
外用薬・内服薬 | 2,000〜3,000円程度 |
ステロイド局所注射 | 1回400円程度(2〜4週間に1度のペースで継続が必要) |
ミノキシジル外用療法▲ | 10,000〜15,000円程度 |
紫外線療法 | 1回1,000円程度(1〜2週間に1度のペースで継続が必要) |
※▲は自由診療。そのほかは3割負担の相場
上記のほか自由診療の治療法の中には1回数万円の費用がかかるものもあり、症状や重症度によって併用が必要となることもあります。
円形脱毛症の治療にまつわるよくある質問

最後は患者様から多く寄せられる円形脱毛症の治療についてのご質問にお答えしていきます。
円形脱毛症の治療は何科に行けばいいでしょうか?
皮膚科であればほとんどが円形脱毛症の治療を行っています。
皮膚科での治療で思うように改善が見られない場合には、早めに専門外来や薄毛治療全般に対応する医療機関への受診を検討すべきかもしれません。
円形脱毛症の治療期間はどれくらいですか?
症状によります。
円形脱毛症の症状にはいくつか種類があり、脱毛斑が1つのみの単発型であれば6ヶ月〜1年ほどで治癒するケースが多いです。脱毛斑が広範囲に広がる全頭型や汎発型だと、治療期間が数年に及ぶ場合もあります。
円形脱毛症は市販の治療薬でも治りますか?
症状や体質によります。
市販薬で改善が見られない場合は、できるだけ早く医療機関にかかることをおすすめします。
女性の円形脱毛症はどのような方法で治療しますか?
円形脱毛症で推奨される治療法には以下のものがあります。
- ステロイド療法(局所注射・外用薬・内服薬)
- 局所免疫療法
- ミノキシジル外用
- 冷却療法
- 紫外線療法
- 再生療法など
どの方法で治療を進めるかは、症状や体質などから総合的に判断し医師が決定します。
補足ですが、円形脱毛症の発症に男女や年齢差はほとんどなく、基本的な治療法もほぼ同じです。治療法についての詳しい内容はこちらをご覧ください。
子どもの円形脱毛症は治療すべきですか?
脱毛による精神的ストレスの軽減という意味では治療を推奨します。
子どもの円形脱毛症は治癒に時間がかかると言われているため、周囲の大人がサポートしながらじっくりと治療を進めていきましょう。
円形脱毛症はアンテベートローションで治りますか?
改善できる可能性があります。
アンテベートローションは湿疹や皮膚炎、乾癬などの皮膚疾患の治療で幅広く使用される外用薬です。皮膚の炎症や赤み、腫れなどを抑える効果があります。
円形脱毛症にいい食べ物はありますか?
特定の食品はありませんが、育毛の観点からいえば栄養バランスのいい食事を継続することは大切です。
円形脱毛症の部分が痛いのですが、違う症状でしょうか?
円形脱毛症で痛みやかゆみが生じるケースはごくまれなので、円形脱毛症以外の原因も考えられるでしょう。
脱毛斑や爪の凸凹以外の症状がある患者様は、一度専門医に相談することをおすすめします。
まとめ|円形脱毛症にはさまざまな治療法があります

円形脱毛症の治療は、症状や体質に合わせて適切な方法を選択する必要があります。
複数の治療法を併用することも可能なので、医師と相談しながら自分に合った方法で改善を目指していきましょう。