これまで重症度の高い円形脱毛症は有効な治療法が少なく、治療は困難とされてきました。
しかし、2022年にオルミエント(バリシチニブ)が円形脱毛症の治療薬として承認され、円形脱毛症に対する新しい切り札として期待されています。
そこで今回はオルミエントについて、円形脱毛症への効果や副作用、費用などを解説します。
オルミエントとは?難治の円形脱毛症に効果が期待できる飲み薬
オルミエント(有効成分:バリシチニブ)は、日本では2022年6月20日に認可された、比較的新しい円形脱毛症治療薬です。
1日1回服用する飲み薬で、蛇行型や全頭型、汎発型など、難治の円形脱毛症に効果が期待できます。
重症(脱毛面積50%以上)の円形脱毛症患者を対象とした国際臨床試験では、投与開始から36週時で、約3割の方が脱毛面積20%以下にまで回復したそうです。
なお、オルミエントの適応は「頭部全体のおおむね50%以上に脱毛が認められ、過去6ヶ月程度毛髪に自然再生が認められない患者」とされています。
軽度~中等度の円形脱毛症や、円形脱毛症以外の脱毛症には適応されませんのでご注意ください。
軽度~中等度の円形脱毛症には、ステロイド療法や局所免疫療法など既存の治療法が推奨されます。
オルミエントが円形脱毛症に作用する仕組み
円形脱毛症は、免疫細胞が毛根を攻撃することによって起こる、自己免疫疾患のひとつとされています。
オルミエントは、円形脱毛症の発症に関与するサイトカインの働きを抑え、免疫細胞による毛根への攻撃を抑える薬です。
免疫細胞の活性化を抑える作用もあり、円形脱毛症だけでなく、以下の症状の治療薬としても承認されています。
- 関節リウマチ(既存治療で効果不十分な場合)
- アトピー性皮膚炎(既存治療で効果不十分な場合)
- 新型コロナウイルスによる肺炎(酸素吸入が必要な場合)
オルミエントの副作用・注意点
オルミエントの服用中は、免疫の働きが低下するため、感染症にかかりやすくなる可能性があります。
確認されている感染症は以下のとおりです。
感染症 | 発現率 |
帯状疱疹 | 2.8% |
上気道感染(鼻炎、上咽頭炎、副鼻腔炎、急性副鼻腔炎、慢性副鼻腔炎、口腔咽頭痛、咽頭炎、咽頭扁桃炎、扁桃炎、喉頭炎、喉頭蓋炎、気管炎を含む) | 1~10%未満 |
単純ヘルペス(ヘルペス性状湿疹、性器ヘルペス、カポジ水痘様発疹、眼部単純ヘルペス、口腔ヘルペスを含む) | 1~10%未満 |
尿路感染 | 1~10%未満 |
肺炎 | 0.6% |
ニューモシスティス肺炎 | 0.1%未満 |
敗血症 | 0.1%未満 |
結核 | 0.1%未満 |
とくに、身体のどちらか片側に帯状の発疹があらわれる「帯状疱疹」は発生頻度が高いとされています。
帯状疱疹は治療が遅れると、上半身や顔にまで広がったり、発疹のあとが残ったりする場合もあるため早めの治療が大切です。
その他にも、以下のような副作用が確認されています。
重大な副作用 | 消化管穿孔、好中球減少、リンパ球減少、ヘモグロビン減少、肝機能障害、黄疸、間質性肺炎、静脈血栓塞栓症 |
その他の副作用 | LDLコレステロール上昇、ALT上昇、AST上昇、血小板増加症、トリグリセリド上昇、CK上昇、悪心、腹痛、頭痛、ざ瘡、発疹、顔面腫脹、蕁麻疹、体重増加 |
咳や発熱、のどの痛み、寒気など、身体に異常を感じたら服用を中断し、すぐに主治医に相談してください。
オルミエントの費用|医療費の助成制度が受けられる可能性も
重度の円形脱毛症において、オルミエントによる治療は健康保険が適用されます。
4mg錠の場合、1ヶ月分(4週間分)の薬剤費は3割負担で44,270円です。
実際に支払う費用は、診察料や検査費などを合計した金額となりますので、月50,000円前後が目安となるでしょう。
保険診療としては高額であるため、高額療養費制度や医療費控除、付加給付など、医療費助成制度の対象となる場合があります。
※各助成制度の詳細につきましては、対象のお問い合せ先にご確認ください。
助成制度 | お問い合せ先 |
高額療養費制度 | 加入されている医療保険、または病院の医事課など |
医療費控除 | 最寄りの税務署 |
付加給付 | 加入されている健康保険組合など |
オルミエント以外の円形脱毛症の治療方法
オルミエントは、重症かつ難治の円形脱毛症にのみ適応される治療薬です。
オルミエント以外の円形脱毛症の治療方法としては、主に以下の5つがあります。
- 局所免疫療法
- ステロイド療法
- ミノキシジル外用療法
- 紫外線療法
- 冷却療法
それぞれ、詳しくみていきましょう。
①局所免疫療法
局所免疫療法は、かぶれを起こす特殊な薬剤を塗布し、脱毛部の発毛を促す治療法です。
かぶれを起こすことで、免疫細胞が皮膚表面に集まり、脱毛が起こりにくくなると言われています。
高い発毛効果が認められており、円形脱毛症の診療ガイドラインにおいても、年齢を問わず治療の第一選択として推奨されている治療法です。
ただし、局所免疫療法に使用されるSADBEやDPCPは医薬品ではなく試薬であるため、保険が適用されず自費診療となります。
推奨度※ | B(行うよう勧める) |
副作用・リスク | かゆみ、赤み、腫れ、色素脱失、蕁麻疹、アトピーの悪化など |
保険適用 | なし |
治療費用の相場 | 1回1,000~3,000円程度 |
※「日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン 2017 年版」 の推奨度を参照
②ステロイド療法
ステロイド療法は、ステロイド薬を塗布または局所注射する治療法です。
ステロイド薬には炎症や免疫機能を抑える効果があり、円形脱毛症においても国内で多くの実績があります。
単発型や融合傾向のない多発型など、軽度~中等度の円形脱毛症治療として選択されることが多いです。
また、脱毛が広範囲にわたる重度の円形脱毛症においては、飲み薬によるステロイド内服療法や、ステロイドを点滴するステロイドパルス療法を行うこともあります。
推奨度※ | 局所注射:B(行うよう勧める) 外用:B(行うよう勧める) 内服:C1(行ってもよい) 点滴:C1(行ってもよい) |
副作用・リスク | 【局所注射・外用】 適用部位の萎縮や疼痛、血管拡張など 【内服・点滴】肥満、満月様顔貌、緑内障、糖尿病、月経不順、消化器症状、ざ瘡、骨粗鬆症など |
保険適用 | あり |
治療費用の相場 | 1回1,000~3,000円程度(点滴の場合は入院費が別途かかる場合あり) |
※「日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン 2017 年版」 の推奨度を参照
③ミノキシジル外用療法
ミノキシジル外用療法は、発毛剤のミノキシジルを脱毛斑に塗布する治療法です。
ミノキシジルには血管を拡張し、発毛を促進する効果があります。
発毛剤として国内で承認されており、AGAをはじめ、円形脱毛症以外の脱毛症治療でも広く使用されている薬です。
ただし、円形脱毛症治療においては十分なエビデンスがなく、あくまで併用療法のひとつとされています。
推奨度※ | C1(行ってもよい) |
副作用・リスク | 適用部のかゆみや発疹、皮膚炎、紅斑など |
保険適用 | なし |
治療費用の相場 | 月5,000~10,000円程度 |
※「日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン 2017 年版」 の推奨度を参照
④紫外線療法
紫外線療法は、紫外線の免疫抑制作用によって、免疫疾患の症状を沈静化させる治療法です。
ナローバンドUVB療法やエキシマライトとも呼ばれ、円形脱毛症の診療ガイドラインにおいては推奨度C1(行ってもよい)と評価されています。
紫外線療法は2020年4月から保険適用となり、費用負担が少なく治療できることもメリットです。
推奨度※ | C1(行ってもよい) |
副作用・リスク | 皮膚の赤み、ほてり、日焼け状態、水疱など |
保険適用 | あり |
治療費用の相場 | 1回1,000~2,000円程度 |
※「日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン 2017 年版」 の推奨度を参照
⑤冷却療法
冷却療法は、ドライアイスや液体窒素によって、軽度の凍傷を起こすことで炎症を沈静化する治療法です。
簡便で副作用も少ないことから、併用療法の一つとして広く行われています。
推奨度※ | C1(行ってもよい) |
副作用・リスク | 冷却による痛み、赤みなど |
保険適用 | なし |
治療費用の相場 | 1回2,000~3,000円程度 |
※「日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン 2017 年版」 の推奨度を参照
当院の円形脱毛症治療について
当院では、オリジナルの局所免疫療法やメソセラピーなど、患者様それぞれの症状にあわせたオーダーメイドの円形脱毛症治療を提案しております。
蛇行型や全頭型、汎発型など、難治とされる円形脱毛症の治療にも積極的に取り組んでおり、遠方から相談に来られる方も多くいらっしゃいます。
【当院の症例】
【治療法】内服薬・外用薬、注射治療
【治療期間】9ヶ月
【治療費用】内服・外用:9,900円〜/月、注入治療:53,900円〜/月 ※治療内容や回数によって金額が変動します
【副作用・リスク】むくみ、動悸、頻脈、肝機能障害
【治療法】内服薬・外用薬、注射治療
【治療期間】15ヶ月
【治療費用】内服・外用:9,900円〜/月、注入治療:53,900円〜/月 ※治療内容や回数によって金額が変動します
【副作用・リスク】むくみ、動悸、頻脈、肝機能障害
なお、治療内容については患者様の状態によって大きく変わるため、まずは無料カウンセリングにてご相談ください。
オルミエントは副作用やデメリットの理解が必要不可欠
オルミエントは2022年に認可されたばかりの新しい円形脱毛症の治療薬です。
全頭型や汎発型など、重度の円形脱毛症に対する効果が臨床試験で確認されています。今後、これらの治療の主力となる可能性は高いでしょう。
ただし、免疫低下による感染症のリスクや副作用、高額な薬剤費など、デメリットもあります。
これらのデメリットを理解し、医師と十分相談した上で治療にのぞむことが大切です。