抜け毛が急激に増えると「何かの病気では?」と不安になるものです。
髪が抜ける病気にはさまざまな種類があり、原因や治療法もそれぞれ異なります。症状の悪化を防ぐには髪が抜ける原因を正しく理解し、適切に対処することが大切です。
本記事では、髪が抜ける病気の種類をまとめました。発症しやすい年齢・性別や治療法も解説するので、抜け毛の増加でお悩みの方は参考にしてください。
【監修】
リバイブAGAクリニック院長 内富 一仁
東北大学卒業後、名古屋セントラル病院にて従事。その後、都内AGAクリニックにて院長を勤めた後、リバイブAGAクリニックを開院。
髪が抜ける病気の種類
髪が抜ける病気には次の種類があります。
- 円形脱毛症
- AGA(男性型脱毛症)
- 甲状腺疾患
- 膠原病
- 分娩後脱毛症
- 脂漏性脱毛症
- 粃糠性脱毛症
- びまん性脱毛症
- 薬剤性脱毛症
- 鉄欠乏症貧血
- 梅毒
- 抜毛症
- 新生児の脱毛
それぞれの原因と対処法を見ていきましょう。
①円形脱毛症
原因 | 自己免疫疾患・アトピー素因・遺伝など |
発症しやすい年齢 | 小児〜高齢者 |
発症しやすい性別 | 男女差なし |
対処法 | ステロイド療法・局所免疫療法・ミノキシジル外用療法・紫外線療法・冷却療法など |
円形脱毛症は髪が抜ける代表的な疾患で、円形または楕円形に脱毛するのが特徴です。
年齢や性別を問わず起こりうるもので、国や社会情勢が変わっても発症頻度は変化しません。(患者数は人口の1〜2%というデータがあります)
原因には免疫系機能の異常やアトピー素因などが関係すると言われていますが、はっきりとした原因は今も明らかにされていません。
円形脱毛症は主にステロイド療法や局所免疫療法、紫外線療法などの治療を行います。軽度であれば自然によくなる場合もありますが、患者様の中には再発を繰り返す方もいます。
②AGA(男性型脱毛症)
原因 | 男性ホルモン・遺伝など |
発症しやすい年齢 | 成人以降 |
発症しやすい性別 | 男性 |
対処法 | 内服薬・外用薬・注入療法・植毛など |
AGAは男性ホルモンや遺伝の影響で生じる男性特有の脱毛症です。
前頭部や頭頂部に脱毛が認められ、早い方では20代前半から抜け毛が増えはじめます。AGAは進行性の脱毛症なので、治療をせずに薄毛が改善することはほとんどありません。
主な治療法は内服薬と外用薬で、治療開始3〜6ヶ月ほどで毛髪の変化を実感できます。発毛効果を高めるには、髪の成長因子を頭皮に直接注入する治療法も有効です。
補足ですが、女性特有の薄毛症状については総じてFAGA(またはFPHL)と呼ぶことがあります。
③甲状腺疾患
原因 | 甲状腺ホルモンの分泌過剰または分泌不全 |
発症しやすい年齢 | 20〜30代に多いが40〜50代でも発症する |
発症しやすい性別 | 女性に多い(男女比は1:9) |
対処法 | 症状次第で薬を処方してもらえる場合がある |
甲状腺ホルモンが過剰に分泌される、または分泌量が不足する疾患で、バセドウ病や橋本病などがよく知られています。
甲状腺ホルモンは髪や体毛の発育に関わるホルモンなので、甲状腺の異常が脱毛につながると言われています。単に抜け毛が増えるだけでなく、円形脱毛症を併発する確率も高いです。
甲状腺疾患が原因で起こる脱毛は、甲状腺ホルモンの分泌量が安定すれば改善します。ただし脱毛が落ち着くまでには時間がかかるため、内服薬や外用薬で治療する場合があります。
④膠原病(こうげんびょう)
原因 | 免疫系機能の異常 |
発症しやすい年齢 | すべての年代で起こりうるが、20〜40代に多い |
発症しやすい性別 | 女性に多い(男女比は1:13〜16) |
対処法 | 症状次第で薬を処方してもらえる場合がある |
免疫系機能の異常によって内臓や血管、皮膚などが炎症を起こす疾患の総称を膠原病と言います。
以下は膠原病の一例です。
- 全身性エリテマトーデス(SLE)
- 血管炎
- 関節性リウマチ
- 全身性強皮症
- 皮膚筋炎
- シェーグレン症候群など
膠原病による脱毛は、膠原病の治療が順調に進めば徐々に改善するケースがほとんどです。
⑤分娩後脱毛症
原因 | 妊娠・出産によるホルモンバランスの変化 |
発症しやすい年齢 | 出産後の女性であれば誰でも起こりうる |
発症しやすい性別 | 女性 |
対処法 | 外用薬・サプリメントなど※出産後1年経過した後も改善しない場合 |
妊娠や出産でホルモンバランスが大きく変化した時、一時的に抜け毛が増えることがあります。
この症状を分娩後脱毛症または産後脱毛症といい、出産後の女性の半数以上が経験すると言われています。(厳密には分娩後脱毛症は病気ではありません)
分娩後脱毛症は出産後3ヶ月頃にピークを迎え、6ヶ月頃には落ち着いていくのが一般的です。原則として治療は行いませんが、1年が経っても抜け毛が減らない場合は産婦人科または薄毛治療のクリニックを受診した方がいいでしょう。
⑥脂漏性脱毛症
原因 | 皮脂の分泌過剰 |
発症しやすい年齢 | 乳児・10〜60代 |
発症しやすい性別 | 男女差なし |
対処法 | 内服薬・外用薬・頭皮ケア・生活習慣の見直しなど |
皮脂の分泌過剰も髪が抜ける原因の一つです。
脂漏性脱毛症は皮脂量の増加に伴い、頭皮環境が悪化することで生じます。乳児や10代に多く認められますが、発症するのに年齢や性別はあまり関係ありません。
主な対処法は内服薬や外用薬での治療ですが、皮脂バランスを整えるスキンケアで自然に改善することもあります。
⑦粃糠性(ひこうせい)脱毛症
原因 | フケ・毛穴の炎症など |
発症しやすい年齢 | 年齢差なし |
発症しやすい性別 | 男女差なし |
対処法 | 内服薬・外用薬・頭皮ケア・生活習慣の見直しなど |
粃糠性脱毛症は、毛穴に詰まったフケが炎症を起こし髪が抜ける脱毛症です。
多量のフケが発生するのが特徴で、症状が悪化すると強いかゆみを伴うことがあります。治療にはステロイド剤や抗真菌薬などが用いられ、かゆみが強い場合は抗ヒスタミン薬も処方されます。
食生活の乱れやストレス、誤ったヘアケアがフケの原因となるため、粃糠性脱毛症の改善には生活習慣を改善することも大切です。
⑧びまん性脱毛症
原因 | ホルモンバランスの変化・栄養不足・ストレス・誤ったヘアケアなど |
発症しやすい年齢 | 40〜50代に多い |
発症しやすい性別 | 女性に多い |
対処法 | 外用薬・サプリメント・頭皮ケア・生活習慣の見直しなど |
髪全体の密度が低下する脱毛症で、中年期の女性に多く認められます。
主な原因には年齢によるホルモン量の低下やストレス、過度なダイエットなどがあげられます。治療にはミノキシジル外用やスピロノラクトン錠などが用いられ、より高い効果を得るには注入治療との併用も有効です。
びまん性脱毛症は女性特有の脱毛症と理解されがちですが、男性でも発症する可能性があります。
⑨薬剤性脱毛症
原因 | 薬の副作用 |
発症しやすい年齢 | 年齢差なし |
発症しやすい性別 | 男女差なし |
対処法 | 原則治療は行わない |
薬の副作用で髪や体毛が抜けることを薬剤性脱毛症と言います。
薬剤性脱毛症には大きく①抗がん剤によるもの②抗がん剤以外の薬によるものの2種類があります。抗がん剤以外では、抗凝固薬のヘパリンやワーファリン、抗てんかん薬のカルバナゼピンなどが有名です。
原因となる薬物を使用しなければ脱毛は治りますが、脱毛を防ぐ目的で基礎疾患の治療を中止することはありません。
⑩鉄欠乏症貧血
原因 | 鉄不足によるヘモグロビン量の低下 |
発症しやすい年齢 | 乳児期・思春期〜閉経前 |
発症しやすい性別 | 女性に多い(男女比は1:5〜6) |
対処法 | 内服薬・注射・食生活の見直しなど |
鉄欠乏症貧血とは、月経出血や授乳、過度なダイエットなどによって血液中のヘモグロビン量が少なくなる状態のことです。
貧血になると酸素の運搬能力が低下し、頭痛やめまい、立ちくらみなどが起こりやすくなります。血液中の酸素が不足すると髪の成長が妨げられるため、貧血気味の方は抜け毛が増えやすいと言えるでしょう。
鉄欠乏症貧血は鉄剤の服用、または注射で治療するのが一般的です。貧血が解消すれば抜け毛も徐々に落ち着きます。
また無理な食事制限は控え、栄養バランスのいい食事を取ることも大切です。
⑪梅毒
原因 | 梅毒トレポネーマ(細菌) |
発症しやすい年齢 | 20〜30代に多い※大前提として性行為(準ずる行為含む)をしなければ感染しない |
発症しやすい性別 | 男女差なし |
対処法 | 内服薬・点滴静脈注射 |
梅毒は性感染症の一種で、性行為やオーラルセックス、キスなどによって感染します。
感染後3週間ほどで性器や口にできものが認められ、さらに数ヶ月経過すると手のひらや足の裏に赤い発疹が発現します。脱毛が認められるのは感染から5ヶ月ほど経った頃です。
早期の治療で完治を目指せますが、放置すると脳や心臓に影響が出て、最悪の場合死に至ることがあります。(抗菌薬で治療をしなければ細菌が体内に残り続ける)
梅毒が原因の脱毛は、梅毒の治療が順調に進めば徐々に改善します。
⑫抜毛症
原因 | 精神的ストレス |
発症しやすい年齢 | 幼児〜思春期 |
発症しやすい性別 | 女性に多い(男女比は1:10) |
対処法 | 内服薬・認知行動療法など |
抜毛症は、髪や眉毛などを自分で抜いてしまう強迫性障害の一種です。
毛を抜くことが心の安定につながり、強い不安やストレスを感じた時に無意識で毛を抜くようになります。
抜毛症の治療には抗ヒスタミン薬やステロイド薬、抗うつ薬などが用いられます。また思考のバランスを取るための心理療法も有効です。
⑬新生児の脱毛
原因 | ヘアサイクル・摩擦 |
発症しやすい年齢 | 新生児期〜乳児期 |
発症しやすい性別 | 男女差なし |
対処法 | なし(自然に生えてくるので問題ありません) |
新生児期から生後6ヶ月頃の赤ちゃんに認められる脱毛症状は「新生児生理的脱毛」と呼ばれます。
生まれて間もない赤ちゃんの脱毛は、髪の生え変わりが一斉に行われることで生じます。成長に伴う生理現象であり、近いうちに新しい髪が生えるので心配はいりません。
また、寝返りのできない赤ちゃんにも後頭部の脱毛が認められます。こちらも成長とともに新しい髪が生えてきます。
新型コロナウイルス感染による抜け毛の増加について
新型コロナウイルス感染後に抜け毛の増加を訴える方が急増しています。
国立国際医療研究センターの調査では、脱毛はコロナ発症後2〜3ヶ月頃に発現しやすいとのデータがあります。男性よりも女性に多く認められ、部分的ではなく髪全体のボリュームが失われたと感じる方が多いようです。
コロナウイルスと抜け毛の関係については未だ解明されておらず、有用な治療法も確立していません。
抜け毛予防としてすぐにできるのは、食生活や睡眠環境の見直しです。栄養バランスのいい食事と質の高い睡眠で免疫力を高めて、感染症対策に努めていきましょう。
参照:新型コロナウイルス感染症罹患後の遷延症状の記述疫学とその出現・遷延リスク因子に関する報告|国立国際医療研究センター
髪が抜けるのは病気かも?大量の抜け毛は早めの対処を
髪が抜ける病気の種類は実にさまざまです。
脱毛は頭皮環境の悪化や免疫力の低下、ホルモンバランスなどが原因で起こります。増え続ける抜け毛は病気のサインかもしれないので、違和感があればすぐに医療機関を受診してください。