汎発性脱毛症は、円形脱毛症の一種に大別されます。
髪だけでなく全身の体毛が抜け落ちることから、もっとも重症度が高いと言われています。この記事では、汎発性脱毛症の原因や治療法についてまとめました。
【監修】
リバイブAGAクリニック院長 内富 一仁
東北大学卒業後、名古屋セントラル病院にて従事。その後、都内AGAクリニックにて院長を勤めた後、リバイブAGAクリニックを開院。
汎発性脱毛症とは|頭部や眉、腋毛など全身の体毛が脱毛する疾患
汎発性とは「全身に、または広い範囲で発生する」という意味をもつ医療用語です。
脱毛症においては、髪をはじめ眉やまつ毛、脇毛、陰毛など全身の体毛が抜け落ちる症状のことをいいます。「全身性脱毛症」とも呼ばれ、いくつか種類がある円形脱毛症のうちもっとも症状が重い状態を指します。
汎発性脱毛症で考えられる3つの原因
汎発性脱毛症の原因については、いまだ不明な部分が多いです。
これまでの研究では、発症のメカニズムに
- 自己免疫疾患
- アトピー素因
- 遺伝
が関係しているという説が有力視されています。
ここからは具体的な内容を解説していきます。
原因①自己免疫疾患
汎発型をはじめ、円形脱毛症の原因として近年もっとも有力視されているのが自己免疫疾患です。
自己免疫疾患は、免疫系機能が誤作動を起こし体の一部を攻撃してしまう疾患です。本来はウイルスや細菌といった異物に対して働くものが、毛包にダメージを与え、その結果として脱毛が生じてしまいます。
円形脱毛症と併発しやすい自己免疫疾患には、甲状腺疾患や尋常性白斑などがあります。(合併率はそれぞれ8%と4%)
なお、自己免疫疾患の原因は明らかにされていません。
原因②アトピー素因
以下に該当する方は、円形脱毛症の発症率が高いことがわかっています。
- アトピー性皮膚炎や気管支炎、アレルギー性鼻炎である
- アレルギーと関係のある物質(IgE抗体)を産生しやすい体質である
- 上記2つに当てはまる家族がいる
本人または家族がアトピー素因であると、約50%の確率で円形脱毛症を発症すると言われています。
原因③遺伝
アトピー素因は遺伝する確率が高く、円形脱毛症になりやすい体質も遺伝する可能性が高いです。
親等が近いほど発症率は高率で、その確率は一卵性双生児の場合で55%であるという報告もあります。(汎発性脱毛症に限定した遺伝率はデータがありません)
ストレスは汎発性脱毛症の原因ではない?
以前は円形脱毛症の原因はストレスであるとの考え方が一般的でした。
しかし近年の研究によって、自己免疫疾患が発症メカニズムに深く関係することが明らかになりつつあります。よって、ストレスは直接原因ではなく発症のきっかけに過ぎないという見方が強まってきました。
汎発性脱毛症の治療法
全身の体毛が抜け落ちる汎発性脱毛症の治療は、以下の治療法を組み合わせて進められる場合が多いです。
- 局所免疫療法
- ステロイド療法(外用・注射)
- 紫外線療法
ここからはそれぞれの治療法を詳しく解説していきます。
治療法①局所免疫療法
化学試薬で人工的にかぶれを起こし、免疫反応を抑制する治療法です。
円形脱毛症の診療ガイドラインでは推奨度がもっとも高く、治療の第一選択肢として行うよう勧められています。汎発型以外の症状にも有効で、年齢を問わず行えるのが特徴です。
局所免疫療法では、接触皮膚炎やじんましん、リンパ節腫脹などの副作用が報告されています。これらの症状が認められた場合は局所免疫療法は中止し、抗ヒスタミン薬やステロイド外用などで治療を進めていきます。
治療法②ステロイド療法(外用・注射)
ステロイド外用薬を1日2回塗布し、免疫反応を抑制する治療法です。
子どもの治療にも適しており、比較的簡易にはじめられます。ただし、長期の治療ではざ瘡や毛包炎といった副作用の可能性があるため、漫然投与すべきではありません。
局所注射は、注射した部位のみ発毛する治療法です。よって脱毛が広範囲に及ぶ汎発型では、単独での治療は不向きとされています。
治療法③紫外線療法
脱毛部位に紫外線を照射し、免疫反応を抑制する治療法です。
照射する紫外線の波長の長さによって、PUVA療法やエキシマレーザー療法などの種類があります。
ただし、汎発型の紫外線療法は再発率が高いことから、単独ではなく併用療法として行うことが推奨されています。
汎発性脱毛症は治療すると体毛も生えるのか?
汎発性脱毛症の治療では、まず人目につきやすい髪の発毛から目指します。
ステロイド外用や注射、局所免疫療法は治療した部位のみに効果が現れる治療法です。したがって、体毛を生やすには原則として各部位への治療が必要となります。
行った治療法が体質や症状に合っていれば、ステロイド療法や局所免疫療法などでも体毛が生える可能性はあるでしょう。
汎発性脱毛症が難病に指定される?
現状、汎発性脱毛症は難病指定はされていません。
指定難病の条件には、
- 効果的な治療法が確立していないこと
- 発症の原因が明らかでないこと
- 治療が長期に及ぶこと
などがあります。
汎発性脱毛症はこれらの条件を満たしているものの、難病として扱われていないのが現状です。
円形脱毛症の患者様を中心としたコミュニティでは、難病指定に向けての署名活動が行われています。難病に指定されれば、医療費や医療用ウィッグ購入時の助成金など患者様やご家族のご負担が軽減されるでしょう。
汎発性脱毛症で今後期待される治療法
汎発性脱毛症に関する研究が進められる中で、今後期待されるのが毛髪再生治療です。
具体的には外用薬で抜け毛を予防する方法や、培養した細胞を頭皮へ移植する方法などがあります。
新たな治療法として認められるには、まず有効性や安全性の基準を満たしているかどうかの臨床試験が必要です。長い年月を要するものですが、これまでの研究の成果が少しずつ形になったと捉えられるニュースも報じられています。
最近ですと、日本の研究グループが世界で初めて円形脱毛症の原因遺伝子を同定したと発表しました。また、米国でも重度の円形脱毛症向けの経口治療薬が承認されています。
汎発性脱毛症は難治であると言われ続けてきましたが、新たな治療法により根治できる時代がくることを期待しましょう。
汎発性脱毛症にまつわるよくある質問
汎発性脱毛症について、患者様から多くいただくご質問にお答えします。
Q.コロナワクチン接種で汎発性脱毛症になることはありますか?
新型コロナウイルス感染症のワクチン接種により、抜け毛の増加を訴える方がいるのは事実です。
海外では、円形脱毛症の既往歴があると再発のリスクが高くなるといったデータがあります。ただし、汎発性脱毛症に限定した調査は報告されていません。
Q.汎発性脱毛症の完治にはどれくらい時間がかかりますか?
効果的な治療法が確立していない汎発性脱毛症は、完治までに長い時間を要すると言われています。
治療経過には個人差があるため、発症後数年で治癒する患者様もいれば、長く治療を継続している方もいます。
Q.汎発性脱毛症にステロイドパルス療法は効きますか?
汎発型のように脱毛が全身に及ぶ場合、ステロイドパルス療法は推奨できません。
ステロイドパルス療法では、内服薬の10〜20倍ものステロイドを点滴します。一時的な方法としては有効ですが、肥満や糖尿病、ムーンフェイスなどの副作用が現れる可能性があるため長期での治療には不向きです。
Q.汎発性脱毛症の治験は行われていますか?
行われています。
ここ最近は、脱毛が広範囲に及び治りにくい円形脱毛症向けの治療薬が適応追加の承認を取得しました。
汎発性脱毛症は効果的な治療法が確立していないため、今後も数々の治験が行われていくでしょう。
まとめ|汎発性脱毛症は根気よく治療を継続することが大切です
汎発性脱毛症は、現在の医療で根治が難しいとされています。
しかし、治療によって髪や体毛が発毛した患者様もいるため、諦めない気持ちを持って治療を継続しましょう。また患者様は外見の印象を強く気にされるので、治療だけでなく周囲が心のケアをサポートすることも大切です。
汎発性脱毛症は併用療法が推奨されています。専門医と相談の上で自分に合った方法で改善を目指していきましょう。