円形脱毛症には「蛇行型」と呼ばれる種類があります。
蛇行型は帯状に脱毛するので、一見すると円形脱毛症の一種とはわかりにくいかもしれません。また単発型や多発型に比べて発症するケースが少ないため、治療に関する情報を十分に得られず強い不安を感じる方もいるでしょう。
この記事では、蛇行型円形脱毛症の原因や治療法について解説します。
蛇行型円形脱毛症とは|帯状に脱毛する症状
蛇行型の円形脱毛症は、側頭部から後頭部にかけて生え際が帯状に脱毛するケースが多いです。
円形脱毛症と聞けばコインのように丸型の脱毛斑をイメージしますが、症状は患者様によって大きく異なります。
種類 | 特徴 |
単発型 | 頭部に1ヶ所のみ脱毛斑が現れる。いわゆる「10円はげ」と呼ばれるタイプ |
多発型 | 脱毛斑が2ヶ所以上ある。はじめから多発する場合もあれば、単発型から多発型に移行するケースもある |
蛇行型 | 側頭部から後頭部に発症するケースが多い |
全頭型 | 脱毛斑が頭部全体に広がり、最終的に髪がすべて脱毛する |
汎発型 | 頭部だけでなく眉毛やまつ毛、陰毛など全身の体毛が脱毛する |
上記のうち、蛇行型はほかの種類に比べて発症例が少ないと言われています。
もとは単発型だったのが多発型→蛇行型と進行するパターンが多いため、このまま髪が抜け落ちてしまうのでは?といった強い不安につながりやすい種類です。
円形脱毛症は脱毛範囲が広くなればなるほど自然治癒が難しく、治療も長期に及ぶ傾向にあります。
しかし、円形脱毛症は治らない病気ではありません。重症化した患者様でも治療によって改善が認められる例も多くありますので、症状や体質に合った治療を根気よく継続していきましょう。
蛇行型の円形脱毛症に初期症状はある?
円形脱毛症になると、まず前触れなく抜け毛が増加します。
洗髪中や枕についた抜け毛を見て、異変を感じる患者様が多いです。脱毛斑周辺の髪を引っ張ると力を入れなくても簡単に抜け落ち、痛みもありません。
髪以外では、爪に凸凹とした溝ができる場合もあります。
蛇行型円形脱毛症の原因
円形脱毛症の原因として考えられるのは次の3つです。
- 自己免疫疾患
- アトピー素因
- 遺伝
それぞれの原因を詳しく見ていきましょう。
原因①自己免疫疾患
自己免疫疾患とは、免疫系機能が誤作動を起こしてしまう疾患のことです。
免疫系機能は本来、ウイルスや細菌といった異物が体内に侵入するのを防ぐために働きます。
自己免疫疾患の場合、Tリンパ球が毛包を異物として認識し毛髪にダメージを与えます。その結果として脱毛が生じる、という考え方が近年もっとも有力視されている円形脱毛症の原因です。
円形脱毛症と併発する自己免疫疾患には次の種類があります。
疾患 | 症状 |
甲状腺疾患 | 甲状腺ホルモンが分泌過剰な状態では動悸・多汗・手足の震え・イライラなど甲状腺ホルモンが分泌不足な状態では脈が遅い・寒気・眠気・物忘れなど |
尋常性白斑 | 肌の色が白く抜ける |
全身性エリテマトーデス(SLE) | 顔面蝶形紅斑・発熱・倦怠感・関節痛・口内炎など |
関節リウマチ | 関節の痛み・腫れ・こわばりなど(朝に強く見られる) |
梅毒 | 発熱・倦怠感・頭痛・のどの痛み・リンパ腺の腫れなど |
原因②アトピー素因
患者様本人、または血縁関係にあるご家族がアトピーの要素を持っていると、そうでない方に比べて円形脱毛症の発症率が高くなることがわかっています。
アトピーの要素には、アトピー性皮膚炎だけでなくアレルギー性鼻炎や気管支喘息、結膜炎なども含まれます。アレルギーを起こしやすい=円形脱毛症になりやすい体質と考えるとわかりやすいかもしれません。
これまでの研究では、円形脱毛症の患者様の約半数がアトピー素因であるという結果が明らかにされています。
原因③遺伝
円形脱毛症の家庭内発症率は高く、円形脱毛症になりやすい体質は遺伝することがわかっています。
海外の大規模な研究では、関係(親等)が近いほど発症率が上がるというデータが報告されています。一卵性双生児がともに円形脱毛症を発症する確率は55%と、非常に高率です。
最新の大規模疫学調査(中国)では、AA患者の8.4%に家族内発症があり、患者との関係(親等)が近いほど発症率が高く、欧米の調査でも1親等内でのAA発症は一般に比べて10 倍である。
引用元:日本皮膚科学会|円形脱毛症診療ガイドライン2017年版
ストレスは円形脱毛症の原因ではない?
ストレスは円形脱毛症の発症のきっかけとなる要因の一つです。
円形脱毛症患者様は何かしらのストレスを抱えていて、ストレスが引き金となって円形脱毛症を発症する例は多いです。また、ストレスは自己免疫疾患を誘引するとも言われています。
ストレスは円形脱毛症の直接的な原因ではありません。しかし、円形脱毛症とストレスは切っても切れない関係にあることは事実です。
蛇行型円形脱毛症の治療法
円形脱毛症は症状や年齢によって受けられる治療法が異なります。
蛇行型の治療で推奨されている方法は次の通りです。
- ステロイド療法
- 局所免疫療法
- ミノキシジル外用療法
- 紫外線療法
- 冷却療法
ここからはそれぞれの治療法を詳しく解説します。
治療法①ステロイド療法
円形脱毛症の治療法としてもっとも一般的なのがステロイド療法です。
局所注射や外用薬、内服薬などの種類があり、症状や年齢によって推奨される治療法は異なります。
ステロイド療法の種類 | 特徴 |
局所注射 | ・円形脱毛症の診療ガイドラインでもっとも推奨度が高い ・原則として子どもへの治療は行わない |
外用薬 | ・比較的簡単にはじめられる ・子どもへの治療可 |
内服薬 | ・円形脱毛症の発症後6ヶ月以内であり、症状が急速に進行している場合に推奨される ・子どもへの治療不可 |
局所注射は、注射した部位のみ発毛効果が認められる治療法です。よって脱毛斑が広範囲に及ぶ蛇行型では、その他の治療法との併用が推奨されます。
治療法②局所免疫療法
数ある円形脱毛症の治療法のうち、第一選択肢として行うよう推奨されているのが局所免疫療法です。
化学試薬で人工的にかぶれを起こし、免疫反応を抑えることで発毛を促します。
局所免疫療法は蛇行型や全頭型、汎発型など脱毛斑が広範囲に及ぶ円形脱毛症に行われるのが一般的です。
治療法③ミノキシジル外用療法
ミノキシジルは日本で唯一、発毛効果が認められている成分です。
AGAやFAGA(FPHL)の治療で推奨される治療法ですが、円形脱毛症の場合その他の治療法と併用する場合があります。(ミノキシジル単独で用いることはありません)
治療法④紫外線療法
紫外線療法とは、脱毛斑に紫外線を照射し、免疫反応を抑える治療法です。
紫外線の波長の長さによって次の種類に分けられます。
紫外線療法の種類 | 特徴 |
PUVA療法 | 波長の長い紫外線(UVA)を照射する |
ナローバンド療法 | 波長が311nm付近の紫外線(UVB)を照射する |
エキシマレーザー療法 | 波長が308nmの紫外線(UVB)を照射する |
PUVA療法は蛇行型をはじめ、全頭型や汎発型など重症度が高い患者様に行われるのが一般的です。
子どもの治療にはナローバンド療法、またはエキシマレーザー療法が推奨されます。
治療法⑤冷却療法
ドライアイスや液体窒素で脱毛部位を冷却し、免疫反応を抑える治療法です。
一般的には単発型や多発型向けの方法ですが、重症度の高い円形脱毛症ではその他の治療法との併用で行われる場合があります。
蛇行型円形脱毛症が完治するまでにかかる時間
蛇行型の円形脱毛症は、治療が長期に及ぶケースが多いです。
症状には個人差があるため具体的な期間は申し上げにくいですが、患者様の中には完治までに数年かかる方もいます。また、重症化するほど治癒までの期間は長くなる傾向にあります。
体質によって再発を繰り返す患者様もいるので、円形脱毛症に気づいたらできるだけ早く医療機関を受診しましょう。
蛇行型円形脱毛症はウィッグでもカバーできる
円形脱毛症の治療が長期に及ぶ場合、発毛が認められるまでの間はウィッグで脱毛斑を隠す方法があります。
ウィッグと聞くと「頭全体を覆うもの」というイメージがありますが、頭部の一部のみ隠せるタイプも販売されています。最近は頭部に直接貼り付けるタイプや、結べるタイプも人気のようです。
ウィッグはネットで手軽に購入できますし、髪質に合わせてフルオーダーする患者様もいます。ウィッグの活用によって前向きな気持ちになれたと話す患者様は多いので、心のケアという目的で試してみるのもいいかもしれません。
蛇行型円形脱毛症の進行が止まらない…考えられる理由
円形脱毛症の発症には、自己免疫疾患やアトピー素因など体質的要因が深く関係します。
これまでの研究で病態の解明は進められているものの、明確な発症原因についてはいまだ不明な部分も多いです。
わかっているのは、円形脱毛症になりやすい体質が遺伝すること。そして、患者様の体質次第では症状が進行したり再発を繰り返したりする場合があるということです。
円形脱毛症は適切な治療で改善が望めるので、悪化を防ぐには早めの対策を心がけましょう。
まとめ|蛇行型の円形脱毛症は根気よく治療を継続しましょう
いくつか種類がある円形脱毛症のうち、蛇行型は症例数が少ないタイプです。
治癒までに時間がかかる傾向にあるため「本当に治るのか」「さらに悪化するのでは?」と不安を感じる患者様もいるでしょう。
円形脱毛症は症状や体質、年齢に合わせて適切な方法を選択する必要があります。蛇行型の場合、複数の治療法を検討しながら根気よく治療を続けていくのがいいでしょう。