
突然髪が抜け落ち、硬貨大の脱毛斑が現れる円形脱毛症。
10円玉程度の大きさに脱毛する症状が広く知られていますが、頭部全体や眉毛、まつ毛などが抜け落ちるケースもあります。体質によって再発しやすい場合もあり、数年にわたって脱毛に悩まされる方もいるでしょう。
この記事では、円形脱毛症の原因と治療法について解説します。
目次
円形脱毛症とは|円形または楕円形の脱毛斑ができる疾患

円形脱毛症(英語名:Alopecia Areata、略AA)は、円形または楕円形の脱毛斑が突然現れる疾患です。
円形脱毛症は「10円ハゲ」と表現されることもありますが、脱毛斑の大きさは患者様によって異なります。また、脱毛斑が多発するケースや全身に及ぶケースもあります。
円形脱毛症の種類

円形脱毛症の症状は大きく5つの種類に分類されます。
- 単発型
- 多発型
- 蛇行型
- 全頭型
- 汎発型
それぞれの種類の詳しい特徴を見ていきましょう。
種類①単発型

円形脱毛症でもっとも多く見られるのが単発型です。
いわゆる「10円ハゲ」と呼ばれるタイプで、脱毛斑は頭部に1ヶ所のみに現れるケースです。自然治癒する場合は2〜3ヶ月で発毛が見られますが、症状次第では長期化することもあります。
種類②多発型

脱毛斑が2ヶ所以上ある場合は、多発型の円形脱毛症に分類されます。
はじめから多発するケースもあれば、単発型が移行して多発型となる場合もあります。
種類③蛇行型

円形脱毛症といっても、脱毛斑が必ずしも丸いわけではありません。
蛇行型の場合は、側頭部から後頭部に向かって帯状の脱毛斑が認められます。ほかの種類に比べて発症例は少ないと言われていますが、脱毛斑を隠しにくいことから悩みの多いタイプと言えます。
種類④全頭型

前頭型は頭部全体に脱毛斑が広がり、最終的に髪の毛がすべて抜け落ちてしまうタイプの円形脱毛症です。
全頭型の治療は長期に及ぶケースがあります。
種類⑤汎発型

頭部のみならず、眉毛やまつ毛、陰毛など全身の体毛が抜け落ちるのが汎発型です。
円形脱毛症の中では重度が高く、長期的な治療を根気よく続けていく必要があると言われています。そのため汎発型の円形脱毛症は、かつらやウィッグを活用しながら治療を継続していきます。
円形脱毛症の原因

円形脱毛症の原因になると考えられるものは次の5つです。
- 自己免疫疾患
- 遺伝
- 精神的ストレス
- アトピー素因
- ホルモンバランスの変化
ここからはそれぞれの原因を詳しく解説します。
原因①自己免疫疾患

円形脱毛症の原因で、近年もっとも有力であると言われるのが自己免疫疾患です。
私たちの身体は、細菌やウイルスなどの異物が侵入するのを防ぐために免疫系機能が働いています。免疫系機能は本来、外部からの侵入者のみ攻撃するのですが、異常が生じるとTリンパ球が毛包を異物として認識します。
その結果健康な毛髪がダメージを受け、脱毛斑ができてしまうのです。なお、免疫系機能に異常が生じる理由については明らかになっていません。
また、円形脱毛症は以下の疾患と併発するケースが多く見られます。
疾患 | 症状 |
甲状腺疾患 | 甲状腺ホルモンが分泌過剰な状態では動悸・多汗・手足の震え・イライラなど甲状腺ホルモンが分泌不足な状態では脈が遅い・寒気・眠気・物忘れなど |
尋常性白斑 | 肌の色が白く抜ける |
全身性エリテマトーデス(SLE) | 顔面蝶形紅斑・発熱・倦怠感・関節痛・口内炎など |
関節リウマチ | 関節の痛み・腫れ・こわばりなど(朝に強く見られる) |
梅毒 | 発熱・倦怠感・頭痛・のどの痛み・リンパ腺の腫れなど |
このうち、甲状腺疾患の合併率は8%、尋常性白斑については4%との報告があります。
参照:日本皮膚科学会ガイドライン「日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン 2017 年版」
原因②遺伝

円形脱毛症と遺伝の関係について、以下の調査結果が報告されています。
最新の大規模疫学調査(中国)では、AA患者の8.4%に家族内発症があり、患者との関係(親等)が近いほど発症率が高く、欧米の調査でも1親等内でのAA発症は一般に比べて 10倍である。また、一卵性双生児でのAA一致率は55%と高率である。
引用元:日本皮膚科学会ガイドライン「日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン 2017 年版」
※AA=円形脱毛症
最近の研究では、円形脱毛症そのものが遺伝するのではなく円形脱毛症になりやすい体質が遺伝することが明らかにされています。
原因③アトピー素因

円形脱毛症の発症には、アトピー性皮膚炎や気管支炎、アレルギー性鼻炎も深く関係します。
円形脱毛症とアトピー性疾患に関する研究では、以下の結果が報告されています。
円形脱毛症の患者本人または家族にアトピー素因がある | 54% |
円形脱毛症の患者本人にアトピー素因がある | 41% |
円形脱毛症とアトピー性皮膚炎の合併がある | 23% |
アトピー素因は遺伝によって受け継がれるため、本人または家族に上記の疾患があれば円形脱毛症になりやすい体質であると言えるのです。
参照:勝岡憲生:アトピー性疾患と円形脱毛症―アトピー性円形脱毛症―,Derma,1999; 23: 9―12.
原因④ホルモンバランスの変化

妊娠中に増えた女性ホルモンが出産によって一気に減少すると、抜け毛が急激に増加します。
この現象は分娩後脱毛症(いわゆる産後ハゲ)と言いますが、この時に円形脱毛症を発症する方がいます。
分娩後脱毛症は時間の経過とともに改善するのが一般的です。ただし、頭部の一部のみに脱毛斑が認められる場合は円形脱毛症が疑われるため、早期に治療をはじめることをおすすめします。
円形脱毛症は男性よりも女性や子供に多い?
円形脱毛症は、年齢や性別を問わず誰でも発症しうる可能性があります。
患者の割合は人口の1〜2%と推測され、国や人種で患者数が変化することもありません。また、自然災害や社会情勢による変化もほぼ影響しないと考えられています。
原因⑤精神的ストレス

「ストレスでハゲる」とはよく言いますが、円形脱毛症においても精神的ストレスが発症の引き金となります。
ストレスと円形脱毛症に直接的な因果関係はないと言われていますが、ストレスをきっかけに円形脱毛症になる患者様がいるのは事実です。
ストレスは交感神経を刺激するため、血管収縮による頭皮の血行不良を招きます。髪の毛は血液が運搬する栄養を源に成長するので、血流が滞ると頭皮に十分な栄養が行き渡らなくなるのです。
また、ストレスによって自律神経が乱れると免疫力が低下し、自己免疫疾患を誘因することもあります。
以上の理由から、近年はストレス=円形脱毛症の誘因と考えるのが一般的になりつつあります。
円形脱毛症を繰り返す原因
円形脱毛症の発症には、自己免疫疾患や遺伝的要因が関係します。
自己免疫疾患と円形脱毛症は合併することが多いので、疾患が治癒しないうちは再発を繰り返す可能性があります。
遺伝によって円形脱毛症になりやすい体質が引き継がれていれば、それもまた円形脱毛症を繰り返す原因となるでしょう。
これって円形脱毛症?特徴的な症状とは

円形脱毛症の患者様には、以下の特徴的な症状が認められる場合が多いです。
- 前触れなく抜け毛が増える
- 頭部の一部に地肌が見えるところがある
- 爪に小さな凸凹が見られる
- 抜け毛の毛根部分が細い、またはとがっている
- 髪の毛を引っ張ると簡単に抜ける
円形脱毛症の患者様は、ある日突然髪の毛が多量に抜けたことで異変に気づく方が多いようです。ブラッシング中や枕に付着した抜け毛が増えたと感じた時に、円形脱毛症を自覚する方もいます。
また、円形脱毛症の診断では爪の凸凹(点状陥凹)を診断基準とします。そのため、抜け毛の増加に加えて爪の状態に変化がある場合も、円形脱毛症の可能性が疑われます。
体質的な特徴としては、
- アトピー素因(アトピー性皮膚炎や気管支炎、アレルギー性鼻炎)がある
- 家族にアトピー素因がある
- 家族に円形脱毛症患者がいる
などもあげられます。
円形脱毛症の治療法

軽快と増悪を繰り返しやすい円形脱毛症は、その性質上確実な治療法は確立していません。
エビデンスのある治療法は少ないですが、さまざまな研究によって有効性が確認された治療法もあります。ここからは円形脱毛症診療のガイドラインに則り、推奨度の高い治療法をご紹介します。
治療法①ステロイド療法

ステロイド療法には以下3つの治療パターンがあります。
- 局所注射
- 外用薬
- 内服薬
脱毛斑が小さい、あるいは進行速度の遅い症状では外用薬で治療を進めるのが一般的です。
脱毛範囲が広範囲に及ぶ場合、外用薬での効果はあまり期待できないため局所注射による治療を検討します。ただし、局所注射には痛みが伴う上、広範囲の治療では注射回数が増える点は留意が必要です。
治療法②局所免疫療法

局所免疫療法は、スクアリック酸(SADBE)またはジフェニルシクロプロペノン(DPCP)などの化学試薬を使用し、人工的にかぶれを起こす治療法です。
かぶれを起こした箇所は免疫反応が抑制されるため、発毛が促されます。局所免疫療法の効果には高い水準のエビデンスがあり、子供への治療も可能です。
一方で、かぶれやじんま疹、リンパ節腫脹などの副作用が生じる場合があります。また、日本では保険外診療に該当するため、治療費は全額自己負担となります。
治療法③ミノキシジル外用療法

ミノキシジルは日本で唯一、発毛効果が認められている成分で、日本では主にAGAやFAGAの治療に用いられます。
海外での診療実績を考慮し、日本でも円形脱毛症の患者様に処方することがあります。
治療法④冷却療法

冷却療法は、免疫反応を抑制し発毛を促す治療法です。
ドライアイスをあてたり液体窒素を湿布するなどして、脱毛斑を刺激します。患部にピリピリとした軽い痛みを感じますが、副作用はほとんどありません。
通常、ほかの治療法と組み合わせて行われる場合が多いです。
治療法⑤紫外線療法

紫外線療法は、アトピー性皮膚炎や尋常性乾癬に対しても行われる治療法です。
照射する紫外線の波長の長さによって、以下の種類に分けられます。
- PUVA療法
- ナローバンドUVB療法
- エキシマレーザー療法
PUVA療法では、ソラレンと呼ばれる薬剤を脱毛斑に塗布してから紫外線照射を行います。ソラレンは内服もできますが、その場合は入院が必要です。
円形脱毛症を治療しないとどうなる?
円形脱毛症を治療するかどうかは、患者様ご自身の判断に委ねられます。
というのも、円形脱毛症の症状は脱毛と爪の凸凹(点状陥凹)に限定され、内蔵疾患の誘因にはならないからです。
円形脱毛症がもっとも影響を与えるのは、外見の印象によるQOL(生活の質)の低下です。見た目が変化すれば人目も気になりますし、髪が抜けることで強いストレスを感じます。
ただ、外見の印象を気にせずに済むのなら無理に治療を続ける必要はありません。治療をしないことを前向きにとらえられれば、治療をしないという選択肢もあるでしょう。
円形脱毛症の治療期間はどれくらい?

円形脱毛症が治癒するまでの期間は、症状や患者様の体質によってさまざまです。
単発型は1年ほどで改善するケースが多いですが、脱毛斑が小さければ6ヶ月ほどで治癒する場合もあります。反対に、全頭型や汎発型は治療が数年に及ぶこともあり、重症化するほど治療期間は長くなる傾向にあります。(治癒までの期間には個人差があります)
体質によって再発を繰り返しやすい方もいるため、治療期間はあくまで目安であるとご理解ください。
形脱毛症が治らない時は
円形脱毛症の治療で思うような効果を実感できない場合、かつらやウィッグを着用するのも一つの方法です。
円形脱毛症診療のガイドラインではかつらの使用が推奨されています。かつら自体に発毛効果はありませんが、脱毛斑を隠すことで悩みを軽減させる効果は期待できるでしょう。
円形脱毛症にまつわるよくある質問

最後は患者様から多く寄せられるご質問にお答えします。
円形脱毛症を早く治す方法はありますか?
円形脱毛症の発症に気づいたら、できるだけ早く適切な治療を受けることが大切です。
脱毛斑が小さい、または少ない場合は自然に治る場合もありますが、早期改善を目指すなら早期対策が必要です。
円形脱毛症の患者がやってはいけないことはありますか?
円形脱毛症の患者様は強いストレスを感じている場合が多いので、ストレスを感じやすい環境にいることは避けた方がいいでしょう。
内臓の病気があると円形脱毛症になりやすいですか?
病気の種類によります。
膠原病(こうげんびょう)の患者様の中には、ごくまれに円形脱毛症の症状が認められる方がいます。(膠原病は円形脱毛症の原因の一つである自己免疫疾患に分類されます)
円形脱毛症はいつのストレスが症状に現れますか?
精神的ストレスが引き金となる円形脱毛症は、ストレスを感じはじめてから3ヶ月頃に症状が現れると言われています。
更年期障害で円形脱毛症になることはありますか?
直接的な原因にはなりませんが、更年期のホルモン分泌量の減少によって抜け毛の増加を感じる場合があります。
円形脱毛症がうつることはありますか?
円形脱毛症の患者様と接触したり、脱毛部位に触れたりしても症状がうつることはありません。
まとめ|円形脱毛症の治療は専門医へ相談しましょう

円形脱毛症は再発の可能性が高い疾患です。
自然に治癒する場合もありますが、重症化すると脱毛斑が増えたり脱毛範囲が広がってしまうこともあります。
症状の改善を目指すには、まず発症の原因を知り、正しく治療を進めていくことが大切です。円形脱毛症でお悩みの方は専門医に相談することをおすすめします。
円形脱毛症の治療に再生治療という選択肢が増えました
- リスクの低い治療を採用
- 症例続々
- 毛母細胞の成長因子に直接アプローチ