円形脱毛症の前兆の一つに爪の変形があります。
患者様の中には「爪の表面がでこぼこしている」「針で刺したような跡がある」といった症状を訴える方がいます。
円形脱毛症と爪の変形は合併する確率が高いことから、診断の際に爪の状態を確認する場合も多いです。
なぜ円形脱毛症になると爪にも症状が出るのか、本記事では両者の関係をわかりやすく解決します。
【監修】
リバイブAGAクリニック院長 内富 一仁
東北大学卒業後、名古屋セントラル病院にて従事。その後、都内AGAクリニックにて院長を勤めた後、リバイブAGAクリニックを開院。
円形脱毛症と爪の関係
円形脱毛症と爪の変形には、自己免疫疾患が関与することがわかっています。
自己免疫疾患とは何らかの原因によって免疫系機能に異常が生じ、正常な細胞や組織を攻撃してしまう病気のことです。免疫系機能が健康な毛包を異物とみなし、ダメージを加えることで脱毛するのが円形脱毛症です。
自己免疫疾患の症状は実にさまざまで、髪だけでなく皮膚や筋肉、関節などにも現れます。爪もまた症状が現れやすい部位で、爪表面に点状のへこみや横溝などが認められるケースが多いです。
円形脱毛症が爪を変形させるというよりは、円形脱毛症の発症に関わる自己免疫疾患が爪にも影響を与えると考えられています。
なお、円形脱毛症と爪の変形を合併する確率は20〜30%と言われています。
円形脱毛症に多く見られる爪の症状
円形脱毛症の患者様に見られる爪の変形症状には次の種類があります。
- 爪甲点状陥凹
- 爪甲横溝
それぞれの症状を詳しく解説します。
①爪甲点状陥凹
爪甲点状陥凹(そうこうてんじょうかんおう)は、円形脱毛症と合併する確率の高い爪の変形症状です。
爪の表面に小さな点状のへこみがいくつもできるのが特徴で、その見た目は針で刺したような跡にも見えます。円形脱毛症の再発時には、点状のへこみが横一列に並んで生じることもあります。
爪甲点状陥凹は免疫系機能の異常によって生じると考えられ、糖尿病や腎臓病、アトピー性皮膚炎の患者様にも多く見られる症状です。
爪甲点状陥凹は治療できる?
爪甲点状陥凹の発現には免疫系機能の異常が関与するため、爪の変形を治すには免疫系機能を正常化させる必要があります。
自己免疫疾患が軽快すれば爪の状態も改善するケースが多いのですが、そもそも免疫系機能に異常が生じる原因は明らかにされていません。
よって、爪甲点状陥凹に限定した治療法は指先にステロイドを塗る方法しかないのが現状です。また、ステロイド外用療法でも改善が見られない場合もあります。
②爪甲横溝
爪甲横溝(そうこうおうこう)は爪の表面に横向きの溝ができる爪の変形症状です。
おもな原因は爪をぶつけるなどの外的要因ですが、免疫系機能の異常や栄養不足なども関係すると言われています。
爪に縦の筋が入るのは円形脱毛症が原因?
爪に縦の筋が入る症状は爪甲縦条(そうこうじょうじょう)と呼ばれます。
爪甲縦条のおもな原因は加齢で、50代以降の方に多く見られるのが特徴です。老化現象の一種であり、円形脱毛症をはじめ何かの病気が潜んでいる可能性はほとんどありません。
円形脱毛症と爪の変形は栄養不足が原因?無関係ではないが直接的な影響は少ない
髪と爪はどちらも食事から摂取した栄養をもとに作られるため、栄養が不足すれば育毛の妨げになることは事実です。
しかし栄養不足で特定の部位だけが脱毛するとは考えにくく、無関係とは言えませんが直接的な影響は少ないでしょう。爪に関しては、割れや二枚爪などの症状が出る可能性があります。
髪や爪はもちろんですが、栄養バランスのいい食事は健康な身体を維持する上で不可欠なものです。直接的な影響がないからといっておろそかにするのではなく、日頃から健康を意識した食生活を心がけることが大切です。
爪の変形以外にもある?円形脱毛症の前兆
円形脱毛症は髪と爪以外に目立った変化が見られません。
よって症状を自覚しにくく、周囲に指摘されて気づいたという方は大勢います。
患者様が円形脱毛症に気づいたきっかけとして多いものは次の通りです。
- 枕に付着する抜け毛の本数が増える
- シャンプー中に大量の髪が抜ける
- 何気なく頭皮を触ったら地肌がツルツルしていた など
前兆とは少し異なりますが、アトピー症状が悪化した時に円形脱毛症が発現するといったケースも多く認められます。(円形脱毛症とアトピー性皮膚炎は高い確率で合併することがわかっています)
円形脱毛症の原因
円形脱毛症の原因でもっとも有力視されているのが自己免疫疾患です。
円形脱毛症を併発しやすい自己免疫疾患には次の種類があります。
- 甲状腺疾患
- 尋常性白斑
- 全身性エリテマトーデス
- 関節リウマチ
- Ⅰ型糖尿病
- 重症筋無力症など
自己免疫疾患以外では、アトピー性皮膚炎や気管支喘息、結膜炎などのアレルギー性疾患も円形脱毛症の発症に関与します。
さらに、円形脱毛症になりやすい体質は遺伝することも明らかにされており、その確率は10〜20%と高率です。
参考:Muller SA, Winkelmann RK: Alopecia areata, an evaluation of 736 patients, Arch Dermatol, 1963; 88: 290―297.
爪が変形する原因
免疫系機能の異常以外で爪が変形する原因は次の3つです。
- 真菌や細菌
- 外的要因
- 栄養不足
手指に菌が繁殖すると、爪の変形や変色が認められることがあります。よくある例が白癬(はくせん)と呼ばれる菌が足に繁殖する水虫です。
白癬はカビの一種で、高温多湿な環境を好みます。靴や靴下で長時間覆われる足元は菌にとって絶好の環境であり、繁殖した菌がかゆみや水疱、爪の変形変色といった症状を引き起こすのです。
また爪に力が加わったり栄養不足が続いた時も、爪のでこぼこや割れなどが生じる場合があります。
爪甲点状陥凹で内臓の病気がわかる?
爪甲点状陥凹は免疫系機能の異常によって生じるため、自己免疫疾患が潜んでいる可能性が考えられます。
自己免疫疾患にはさまざまな種類があり、爪の変形だけでその種類を特定するのは困難です。
爪の変形に加えて身体に何らかの変化を感じた時は、できるだけ早く医療機関を受診しましょう。
子供の円形脱毛症と爪の変形について
円形脱毛症の発症に年齢や性別はあまり関係なく、子供の発症例も決して珍しいものではありません。
患者様の20%は15歳以下の子供であると言われており、中には生後数ヶ月で円形脱毛症を発症するお子さんもいます。
また円形脱毛症の原因は大人と子供で変わりはなく、子供にも爪の変形が認められる場合があります。
治療については年齢で制限される方法があるため、専門医に相談しながら適切な方法で改善を目指していきましょう。
円形脱毛症と爪の変形を早く治す方法
円形脱毛症を早く治すには、円形脱毛症に理解のある専門医に相談することが大切です。
円形脱毛症にはいくつか種類があり、もっとも軽い単発型は自然治癒する可能性が高いと言われています。
一方で単発型から多発型や全頭型に進行するケースもあり、重症化するにつれ治療が長期に及ぶケースは多いです。
不安を解消し早期改善を目指すには、症状に気づいた時点で治療を受けることをおすすめします。
円形脱毛症と爪にまつわるよくある質問
円形脱毛症と爪の変形にまつわる質問と回答をまとめました。
Q.爪の変形を放っておくとどうなりますか?
円形脱毛症と合併して発現した爪の変形は放置しても大きな問題はないでしょう。
ただし、外的要因など爪が変形した原因によっては日常生活に支障をきたす場合があります。
足の巻き爪や爪の食い込み(陥入爪)は痛みの原因となり、放置すると歩行障害や関節の変形を引き起こす恐れがあります。違和感がある時はできるだけ早く医療機関を受診しましょう。
免疫系機能の異常や栄養不足からくる爪の変形は、根本原因に対する対策で改善するケースが多いです。
Q.爪が1本だけでこぼこするのも円形脱毛症の前兆ですか?
爪甲点状陥凹は指の種類や本数にかかわらず生じるものなので、1か所であっても円形脱毛症の前兆である可能性があります。
Q.ストレスで爪が変形することはありますか?
ストレスによる自律神経の乱れが免疫系機能の異常を引き起こし、爪の変形につながる可能性はあります。
爪は時間をかけて成長するため、爪の変形となって現れるのは数ヶ月後だと言われています。
まとめ:爪の変形は円形脱毛症が潜んでいるサインかもしれません
円形脱毛症と爪の変形は合併の頻度が高いことが明らかにされています。
両者には免疫系機能の異常が関与しているため、爪が点状にでこぼこする症状が認められると円形脱毛症が潜んでいる可能性があります。
円形脱毛症を見つけたら、できるだけ早く医療機関を受診しましょう。