円形脱毛症は性別や年齢を問わず、さまざまな方に起こりうる脱毛症です。
妊娠中や出産後に円形脱毛症になる方も多く「妊娠中でも治療はできるのか?」「お腹の子どもに影響はないのか?」などの疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
この記事では、妊婦の円形脱毛症について原因や治療方法を解説します。
【監修】
リバイブAGAクリニック院長 内富 一仁
東北大学卒業後、名古屋セントラル病院にて従事。その後、都内AGAクリニックにて院長を勤めた後、リバイブAGAクリニックを開院。
円形脱毛症について
円形脱毛症は、円形または楕円形の脱毛斑が現れる疾患です。
俗に「10円はげ」と表現されることもありますが、脱毛斑の数や大きさは人それぞれ異なります。
たとえば、小さな脱毛斑が1つだけできる「単発型」、複数の脱毛斑が現れる「多発型」、頭部全体に脱毛斑が広がる「全頭型」などがあります。
他の脱毛症と区別が付きにくい場合もありますが、以下の特徴的な症状が認められる場合は、円形脱毛症の可能性が高いと言えるでしょう。
- 前触れなく抜け毛が増える
- 頭部の一部に地肌が見える部分がある
- 爪に小さな凸凹が見られる
- 抜け毛の毛根部分が細い、またはとがっている
- 髪の毛を引っ張ると簡単に抜ける
また、髪の毛だけでなく、眉毛や体毛が脱毛する可能性があるのも円形脱毛症の特徴です。
円形脱毛症は軽度であれば自然に回復する場合もありますが、重症化すると治療は長期化しやすい傾向にあります。
「円形脱毛症かも?」と思ったら、早めにクリニックに相談し、治療を受けることが大切です。
妊娠中に起こる円形脱毛症の原因
円形脱毛症の原因はハッキリとはわかっていませんが、自己免疫疾患の可能性が有力視されています。
自己免疫疾患とは、細菌やウイルスを排除するための機能(免疫系機能)に異常が起こり、自身の細胞などを攻撃してしまう疾患のことです。
体が毛根を異物と間違えて攻撃してしまうことで、髪の毛が抜け落ちてしまいます。
自己免疫疾患以外にも、妊娠中の女性の場合、以下が円形脱毛症の原因になりやすいと考えられます。
- ホルモンバランスの乱れ
- ストレス
- 栄養不足
それぞれの原因について、詳しくみていきましょう。
①ホルモンバランスの乱れ
ホルモンバランスの乱れは、円形脱毛症を発症する原因となる可能性があります。
女性ホルモンには発毛を促進する作用があり、妊娠中は女性ホルモンが増えることで、髪の毛が抜けにくい状態です。
一方で、出産後は女性ホルモンが急激に減少し、いわゆる「産後脱毛」が起こるのですが、このときに円形脱毛症を発症する場合があります。
産後脱毛は一時的なものですが、円形脱毛症は重症化する場合もあり、早めに治療に取り組むことが大切です。
②ストレス
ストレスが薄毛につながることは、昔から広く知られています。
直接的な因果関係は認められていませんが、ストレスをきっかけに円形脱毛症になる方も多く、関係は深いと言えるでしょう。
とくに、妊娠中は出産への不安や、行動の制限などによって普段よりストレスが溜まりやすいです。
ストレスによって自律神経が乱れると免疫力が低下し、自己免疫疾患を誘因する可能性もあります。
円形脱毛症を始め、さまざまな病気を予防するためにも、ストレスをうまく解消することが大切です。
③栄養不足
栄養不足により髪の成長が妨げられ、抜け毛や円形脱毛症の原因となる可能性があります。
とくに妊娠中はお腹の子どもに栄養が回るため、普段と同じ食事でも栄養不足に陥りやすい状態です。
髪の毛の材料となる「タンパク質」や「亜鉛」を積極的に摂るようにしましょう。
また、胎児の発育や頭皮環境に悪影響を与える食事・悪習慣を避けることも大切です。
たとえばジャンクフード中心の食生活やアルコールの摂取、喫煙などはお腹の子どものためにも避けたほうが望ましいでしょう。
円形脱毛症を早く治す方法
円形脱毛症を早く治すためには、クリニックでの治療はもちろん、日頃のセルフケアも大切です。
- クリニックで治療を受ける
- 栄養バランスの良い食事を心がける
- ストレスをうまく解消する
- 睡眠をしっかり取る
- 頭皮ケアを正しく行う
それぞれ、詳しくみていきましょう。
①クリニックで治療を受ける
円形脱毛症は早めにクリニックで診察を受け、治療を開始することが大切です。
重症化してしまうと、治療が長期化しやすい傾向にあるからです。また、他の脱毛症と異なり明確な原因がわからないため、同じ治療でもみな同じ効果が得られるというわけでなく治療が難しいと言われています。
自然治癒するケースもありますが、放置することで脱毛斑が増えたり、広がったりしてしまうかもしれません。
円形脱毛症には以下のような、さまざまな治療法があります。
- 局所免疫療法
- ステロイド療法
- 冷却療法
- 紫外線療法
中でも、局所免疫療法とステロイド療法(外用・局所注射療法)は円形脱毛症の診療ガイドラインでもっとも推奨度が高い治療法とされています。
妊婦の方が受けられる治療もあるので、まずはクリニックまでご相談ください。
②栄養バランスの良い食事を心がける
円形脱毛症を早く治すためには、普段から栄養バランスの良い食事を心がけ、髪の成長に必要な栄養をしっかり摂ることが大切です。
とくに、妊婦の方は子どもの成長に栄養が回ってしまうため、これまで通りの食事では栄養が不足しがちになってしまいます。
具体的には、タンパク質と亜鉛を十分摂るようにしましょう。
タンパク質 | 亜鉛 | |
機能 | 髪の主成分(ケラチン)となる | ケラチンの生成をサポート |
食品例 | 肉、卵、牛乳、大豆など | 牡蠣、豚レバーなど |
摂取目安量 | 65~100g/日※1 | 10mg/日※2 |
※1 18~29歳、身体活動レベルII(ふつう:おもに座って行う仕事だが、職場内での移動や立って行う作業・接客等、通勤・買い物・家事、軽いスポーツ等のいずれかを含む場合)の目標量。妊婦及び授乳婦の目標量については、十分な報告がないため、非妊婦及び非授乳婦と同じ値が推奨されている。
※2 18~29歳、妊婦の推奨量
※参考:厚生労働省|日本人の食事摂取基準(2020 年版)
「この栄養を摂れば円形脱毛症が治る」というものではありませんが、健康な髪を育てるためにも、栄養バランスのいい食事は欠かせません。
食事だけで摂取するのが難しい場合は、プロテインやサプリメントなどもあわせてみるとよいでしょう。
③ストレスをうまく解消する
「ストレスは万病の元」と言われているように、過度のストレスは健康にさまざまな悪影響を及ぼします。
頭皮や髪の毛も例外ではありません。過度のストレスは円形脱毛症を悪化させ、回復を妨げてしまう恐れがあります。
自分にあった趣味や発散方法を見つけ、日頃からストレスをうまく解消することが大切です。
また、円形脱毛症が目立つことにストレスを感じ、さらに症状が悪化する悪循環に陥ってしまう方もいます。
帽子やウィッグなど、円形脱毛症を隠す方法はいくつかあるので、自分にあった方法を見つけてみてください。
④睡眠をしっかり取る
円形脱毛症を早く治すには、十分な睡眠時間を確保することも大切です。
睡眠中は髪の成長を促すホルモンが多く分泌されるため、睡眠不足は髪の成長を妨げる原因となるでしょう。
また、睡眠時間だけでなく、睡眠の質を向上させることも髪の成長には欠かせません。
- 入浴は寝る1~2時間前に済ませる
- 寝酒・深酒はしない(飲酒は寝る3時間前までが目安)
- 寝る1時間前からスマホやPCなどの画面を見ない
以上のことを実践して、睡眠の質向上を目指しましょう。
⑤頭皮ケアを正しく行う
円形脱毛症だからといって、抜け毛を恐れてシャンプーの回数を減らす必要はありません。毎日丁寧にシャンプーを行い、頭皮を清潔に保つようにしてください。
シャンプーの種類は、頭皮に優しい低刺激性のアミノ酸系シャンプーがよいでしょう。
ただし、洗い過ぎや力の入れすぎには注意が必要です。
過度な洗髪は必要な皮脂まで落としてしまい、頭皮の環境を悪化させます。1日1~2回、爪を立てず、指の腹で優しく洗うようにしてください。
妊娠前後に起こりやすいその他の脱毛症状
妊娠前後には円形脱毛症以外にも、さまざまな脱毛症が起こる可能性があります。
- 休止期脱毛症(産後脱毛症)
- FAGA(女性男性型脱毛症)
妊娠前後に起こりやすいと考えられるこれらの脱毛症について、詳しく解説していきます。
休止期脱毛症(産後脱毛症)
女性は出産後に「産後脱毛症」が起こりやすいと言われています。
産後脱毛症とは「分娩後脱毛症」とも呼ばれる休止期脱毛症の一種です。
妊娠中に増加した女性ホルモンが出産で急減する(もとに戻る)ことにより、大量の髪の毛が休止期へと移行し、数ヶ月かけて抜け落ちます。
産後脱毛症は多くの場合が一時的な症状です。ほとんどの場合、出産より半年から1年程度で自然に回復し、抜け毛がおさまったと感じるようになります。
FAGA(女性男性型脱毛症)
FAGA(女性男性型脱毛症)は男性の薄毛に多いAGA(男性型脱毛症)の女性型です。
加齢による女性ホルモンの減少が主な原因と言われていますが、血流不足や栄養不足などさまざまな要因が複合して起こることもあり、20~30代のFAGAも珍しくありません。
また、FAGAは全体的に毛が薄くなったり、細くなったりするのが特徴です。細い抜け毛が増えてきたら、FAGAの可能性があります。
FAGAの治療には、内服薬や外用薬、メソセラピー、HARG療法などがあります。FAGAは進行型のため、円形脱毛症と同じく、早期の治療が大切です。
妊婦の円形脱毛症にまつわるよくある質問
妊婦の円形脱毛症や、抜け毛に関する質問をまとめました。
Q. 妊娠中の抜け毛と生まれてくる子どもの性別に関係はありますか?
妊娠中の抜け毛と生まれてくる子どもの性別に因果関係は認められておらず、科学的な根拠はありません。
妊娠中の抜け毛は女性ホルモンが増加し、髪の毛が増えたことで抜け毛も増えたように感じるのが原因と考えられます。
なお、子どもの性別は早ければ妊娠12~15週ごろにエコー検査で確認できます。詳しくは、お近くの産婦人科までおたずねください。
Q. 円形脱毛症は遺伝すると聞きました。妊娠中に発症すると子どもに遺伝しますか?
円形脱毛症になりやすいかどうかは、遺伝による部分も多いと考えられています。
中国で行われた調査によると、円形脱毛症患者の8.4%に家庭内発症があったそうです。
家族間の関係が近ければ近いほど発症率は高くなり、一卵性双生児においては55%と高くなります。
Q. 妊娠初期の抜け毛はいつまで続きますか?
妊娠初期の抜け毛にはさまざまな原因が考えられるため、一概には言えません。
妊娠初期から出産にかけては、女性ホルモンが増加するため髪の毛が増えます。髪の毛が増えると当然抜け毛も増えるので、抜け毛が増えたと感じるのはそのせいかもしれません。
一方で、栄養不足や環境変化によるストレスなど、他の原因による抜け毛も考えられます。この場合は生活習慣の改善や治療が必要です。
ヘアサイクルの関係もありますので、原因を排除した場合でも、抜け毛が減ったと実感するまでは数ヶ月~半年程度のタイムラグがあります。
Q. 円形脱毛症が治る前兆はありますか?
円形脱毛症の回復期には、主に以下のような前兆が現れます。
- 産毛や白髪が生えてくる
- 頭皮がかゆくなる
産毛や白髪が生えるのは、髪の毛を作る細胞が働き出したサインです。細胞が活発になることで次第に太く、黒い髪になっていきます。
Q. 妊娠中に髪の毛を染めても大丈夫ですか?
妊娠中のヘアカラーや白髪染めはとくに問題ありません。
ただし、アトピー素因のある方は、頭皮に負担のかかる可能性があるため控えたほうが良いでしょう。
また、髪の毛を染める際はなるべく体調のよい日に行い、気分が悪いときや、つわりのひどいときは控えるようにしてください。
人によっては、薬剤のにおいなどで気分が悪くなる場合があります。
妊娠中でも治療の相談が可能です
円形脱毛症の治療には、母体や胎児への影響から、妊娠中の方はお断りしている治療もあります。
しかし、昨今では治療の選択肢が大きく広がり、日本皮膚科学会の円形脱毛症診療ガイドラインでは計26種類もの治療法について言及されています。
円形脱毛症は早期の治療が大切です。まずはクリニックまで相談にお越しください。